学校の成績の良しあしが、地域の経済格差拡大に直結する。
「まったくクレージーなことですよ」
ロンドン北部マスウェル・ヒルで不動産屋を営むフェリックス・フェリックスさん(59)は、公立中等学校、フォーティスミア校の通学区域内にある住宅に人気が殺到していることに、あきれ顔だ。
周辺は、19世紀後半に整備された住宅街。近年、中流階級
に人気を集める「リーフィー・サバーブ(並木のある郊外)」の
典型だ。
ロンドン中心部への通勤圏にあり、元々、不動産価格は上昇
傾向にある。
しかし、このあたりで一般的な、床面積200平方メートル程度、
90万ポンド(約2億円)クラスの家が、道一つ隔てた学区内だと
10万ポンド(約2300万円)以上上がる。
「入学申し込み時期ともなれば、医師や弁護士など裕福な層が、
何人も同じ家をほしがって値段をつり上げていくんです」
フォーティスミア校の成績は全国の公立校でトップレベル。1学年
約200人の定員に2000人以上が申し込む。学校理事会の
理事長である大学講師自身、わが子のためにイングランド中央部
のオックスフォード市から引っ越している。
英国ではサッチャー政権時代に学区制が廃止され、ブレア政権も
引き継いだ。保護者は全国テストの成績や学校評価の結果を見て、
学校を選ぶことができる。
定員を超える場合、兄や姉の在学する家庭や、学区内に居住する
家庭が優先されるため、人気校近くへの転居が後を絶たない。
ただ、希望者が殺到すると、学校に近い家庭を優先するため、
学区内に転居しても通えるとは限らない。
「不動産価格の高騰は、貧しい家庭の子供を優秀校から締め出す
ことにつながっている」とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの
スティーブン・ギボンズ講師(44)が指摘する。
メディアが報じる全国テストの学校別順位表を使って、学校の成績
と周辺の不動産価格の関係を調べてきた。
最近の論文で、ロンドンでは、政府が目標とする成績に達する
11歳児が1割増えると、その学校周辺の不動産価格が3%
上昇すると指摘した。
「上位の公立校に引っ越す費用は私立校の学費に匹敵する」とも。
成績下位の学校から裕福な家庭の優秀な生徒が流出し、学校
間格差が広がることを懸念する声は英国民の中にも広がりつつ
ある。
このため、英国政府は今年1月、定員超過の学校では入学者
選抜に抽選を導入することを提案した。だが、イングランド南海岸
の保養地、ブライトン市が2月下旬、この方式の採用を決めると、
市民4000人が反対署名を集め、子供も交えたデモにまで発展
した。
新聞各紙は「中流階級にとって厳しい戦争が始まった」「貧しい
家庭の子供がチャンスを勝ち取れる」などと一斉に取り上げ、
抽選の是非を問いかけた。
学校の質を高めるのが目的の選択制度。大切な議論が置き去り
にされている。(松本由佳、写真も)
<学校選びで不服申し立て制度>
英国では、学校選択で第1志望が認められなかった生徒の親は
教育委員会に当たる地方当局(LA)に不服申し立てできる。
英国教育技能省によると、中等学校に関する申し立ては2004
年度は約6万3000件(全体の9・3%)。
ピークは2002年度の約7万件。例年3割程度の申し立てが受け
入れられる。